実際の格付けより、市場が発行体を判断したスプレッドの方が優先されるべきであろう。
通常投資家が、投資行為を行うにあたって直面するリスクを大別すれば、信用リスク、市場リスク、流動性リスクがある。
信用リスクとは、与信先の財務状況の悪化等により資産の価値が減少ないし消失し、損害を被るリスクと定義できる。
典型的には、与信先が倒産し債券や貸し金の元利金の返済が行われなくなるケースが挙げられる。
また、投資先の信用悪化により所有債券の価値が大きく値下がりすることにより発生するキャピタルロスも含まれる。
一方、市場リスクは、金利リスク、為替リスクおよび価格変動リスク等があり、市場の変動により既存のポジションが影響を受け損失が発生するリスクをいう。
最後に流動性リスクとは、投資家が運用と調達の期間のミスマッチや予期せぬ資金の流出等により、通常よりも著しく高い金利で資金調達を余儀なくされたり、また通常より安い価格で債券等の資産を売却せざるを得なくなることにより発生するリスクと定義される。
このような投資家が直面する様々なリスクに対して、デリバティブはその有力なヘッジ方法として発展してきた。
例えば、為替リスクに対しては、通貨スワップや為替オプション取引により将来の為替リスクをヘッジすることを可能にし、また金利リスクに対しては、金利スワップ、金利先物、債券先物取引等様々なヘッジ方法が登場している。
信用リスクについては、クレジット・デリバティブを使えば第3者に転嫁することが可能になり、このようなデリバティブの登場によってこれもヘッジ可能なリスクとなった。
さらに、流動性リスクについても、デリバティブが様々なヘッジ方法を提供することにより、投資家に代替案を提供し流動性リスクそのものを減少させている。
デリバティブの利用により、信用リスク、市場リスク、流動性リスクが一元的に捉えられることになる。
そしてそれらのリスクをそれぞれ評価することにより、実際の債権・債務の価格が決定されるのである。
投資家の投資リスクとして考えられるものとして、A国政府の信用リスク、金利が豪州ドルであることに関連した豪州ドルと円の為替リスク、円金利の金利リスク、個別の投資家のニーズにあわせて作った仕組債であることもあり、この債券をそのまま購入できる人が限られていることによる流動性リスクがある。
最初に逆デュアル債の為替リスクを分離することから始めよう。
為替リスクの除去は、クーポンスワップや長期先物予約を使い簡単に行うことが可能である。
この債券の金利は、毎年豪州ドルで7百万ドルであるので、あらかじめ為替先物予約で毎年の豪州ドル売り円買いを行えば、債券の金利額が確定し為替リスクを完全に排除することができるからである。
一方、豪州ドルと円の金利のみを交換するクーポンスワップを使えば、豪州ドルでの利払いを円貨で例えば4.00%に確定することができる。
次に、円金利リスクの除去を考えることにする。
円金利リスクは、円金利スワップを締結することにより簡単に除去でき、当該債券を円LIBOR+1.00%の変動金利の債券に変えることができるのである。
もしこの投資家が、これらのスワップ取引が可能である。
個別の投資家の性格を考えながら逆デュアル債の流通価格がいかに形成され、また流動性リスクをデリバティブがいかに管理して行くかを考えることにする。
投資家Aは、リスク管理手法導入の発達した大手機関投資家である。
アセットスワップ取引等デリバティブ取引を活用できる投資家でありその運用の技術が高いゆえに、個別投資の要求がきつく、A国政府のクレジットに対して、LIBOR+0.40%以上のスプレッドを要求であり、この債券を残り7年間待ち続けるのであれば、もはや発行体の信用リスクのみが投資リスクといえる。
流動性リスクは、仕組債の場合他の債券に比べて大きくなる。
しかし、デリバティブの技術の発達と投資家や発行体のデリバティブ活用の一般化により、仕組債といえど流動性が上昇してきている。
以下債券の流動性を高めるために実際に市場で行われている方法を紹介することにする。
投資家Bは、アセットスワップ取引を自己で行うことができず、また会計処理の関係で額面100円の債券しか購入できない。
しかしながら、投資対象に関しては柔軟であり、図のように海外の既存債券を担保にした債券発行専門会社の発行した新規発行債券は購入できる。
この投資家は、A国政府のクレジットに対して、LIBOR+0.20%以上のスプレッドを要求する。
最後に投資家Cは、その資金調達コストが低い反面、投資行動にはかなり制約がある。
具体的には、デリバティブ取引には制約が多く、アセットスワップは行えず、また購入債券の価格は額面と同じ100円以下である必要がある。
また投資銘柄に関する制約がつよく、実体のある発行体の債券しか購入できない。
この投資家は、A国政府のクレジットに対して、LIBORフラット以上のスプレッドを要求している。
以上の投資家A、B、Cを前提にして、この逆デュアル債の流通価格を計算することにする。
なお、どの投資家も、逆デュアル債という特殊なキャッシュフローをそのまま保有することには、価値を見い出していないものとする。
まず、スワップが存在しなかったらどうなるだろうか。
投資家A、B、Cともこのようなイレギュラーなキャッシュフローは望んでいないので、よほど価格が魅力的、すなわち安くなければ、だれもこのような商品を買おうとはしない。
従って、この逆デュアル債はかなり安くないと売れなくなってしまう。
言い換えれば流動性リスクが大きいために利回りが高くなる。
次に通貨スワップや金利スワップが存在する世界ではどうだろうか。
この場合、この債券の購入者として、投資家Aが対象に入ってくる。
なぜなら投資家Aは、この逆デュアル債に通貨スワップ、金利スワップを組み合わせて、自分の好む投資の形であるLIBOR+αの変動利付債に変換することが出来るからである。
このように最終目的物が得られるのであるから投資家Aは、もはや逆デュアル債に特別のプレミアムを求める必要はない。
つまりこの最終目的物が投資家Aにとってフェアな価格、すなわちLIBOR+0.4%の利回りを持っていればよいことになる。
このことは、スワップの存在が投資家の層を広げ、流動性が増したことによって、この債券の利回りがよりフェアな値に近づいたこと、すなわち流動性プレミアムが低減されたことを意味している。
この債券を投資家Aに売却し、投資家Aがさらにスワップを組み合わせた場合の資金の流れを表している。
残存期間7年、豪州ドル7.00%の逆デュアル債は、アセットスワップ後、円LIBOR+1.00%にすることが可能であると仮定する。
一方、投資家Aの要求スプレッドは、LIBOR+0.40%であるので、その差0.60%の部分だけ債券の額面100.00に対してプレミアムがつくことになる。
0.60%の7年分の現在価値を計算すると約3.80%になるので、図のように債券の金利豪州ドル7.00%を支払い、円LIBOR+0.40%のアセットスワップを行えば、3.80%の金利を最初にもらうことが可能になる。
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